住まいは買うモノではなく、一緒に創るモノ。建築家・阿部勤の美徳。(1/4)
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INTERVIEWS:
阿部 勤 / 建築家
効率利得が重要視される世の中で創られるモノは、無味無臭な均一化されたモノになりがちです。建築家・阿部勤は、住い手に寄り添い、手を掛け、心を込め、丁寧に住まうことの本質を追求していきます。この美徳が出来上がったモノに品格を与え、知性や精神という感性を耕す場になるのだと思います。個人事務所として最多6度の「建築25年賞」受賞がそれを物語っています。
*** JIA 日本建築家協会25年賞
25年以上に亘り「長く地域の環境に貢献し、風雪に耐えて美しく維持され、社会に対して建築の意義を語りかけて来た建築物」を表彰する。
どのように住まうかを考えることは、自分の生き方を考えることです。その人生にとって大事なことを、家電のように簡単に買ったり、ハウスメーカーのマニュアル通りに作ったりするなど考えられますか?
私は、とにかく建築が好きです。作ること、新しい物事を企画、設計することが大好きで常に設計しています。建築を設計すること、特に住まいの設計は凄く楽しいですからクライアントに必ず言うのは「こんな楽しいことを建築家に任せちゃうのは勿体無いですよ、できるだけ参加して下さい」と。住まいは、耐久性、安全性、使い勝手などの利便性、建設コスト、低いメンテナンスコストなどが大切です。それに加え時間の経過の中で、住い手に馴染み、環境に馴染み、住い手らしい品格も大切です。そして安らぎ、楽しみ、知的刺激に溢れた感性が育つ場所なのです。
住まいを作るのには設計が必要です。設計者は住い手がどのような住まいを考えているかを理解し設計します。設計者にも色々あります。大きく分けて建築家とハウスメーカーや施工会社などの企業に属している設計者です。企業に属している設計者はマニュアルに従って設計する営業マンだったりもします。どのように住まうかを考えることは、自分の生き方を考えることです。その人生にとって大事なことを、家電のように簡単に買ったり、ハウスメーカーのマニュアル通りに作ったりするなど考えられますか?いずれにしても利潤を挙げるための企業に属している設計者は、住い手とは利害が相反する側の立場にいます。
設計に従い見積もり金額が決まり契約をしても、その金額が妥当かどうか素人には分かりませんし完成した物が契約金額にあったものかも素人には分かりません。表面の仕上げはある程度チェックできますが常に見ているわけではありませんから、壁の中や構造に関しては全く分かりません。その点、建築家は住い手の側に立って設計し見積もりをチェックし工事を監理しますから安心です。
現在は大工とは名ばかりで、プレカット工場に発注すると、コピュータと機械で仕口を削り、壁もプラスターボードクロスです。職人が心を込める場所も時間もありません。本当に棟梁らしい棟梁も伝統的な技術をもった職人はどんどん減っている残念な状態です。
しかし建築家にも色々いて、住い手のためというより雑誌に載せるためとか自分の考えを実現するために設計する建築家もいますから、住い手も、住い手の立場に立ち、価値観を共有できる建築家を選ばなければなりません。昔は住まいを作る主役は棟梁でした、棟梁は若い頃から丁稚奉公で技術を身につけ、総ての職人をまとめることのできる能力をもった人です。いわば大工職人と建築家を兼務できるスーパーマンです。材木屋もスポンサーとし棟梁を育てるのに一役買いました。また常に槌の音がしていないと気が済まないお金持ちの普請好きの施主もいて、時間をかけ、心を込めて住まい造りをしたものです。
大工は鉋(かんな)や鑿(のみ)の刃を研ぎ、鋸の目立をし、墨出しをして鑿で刻み、鉋で削る。壁にしても小舞(こまい)職人が竹を裂き、組み、左官屋が土を捏ね、下塗、中塗り、そこで何年かかけてから上塗りをする等、手を掛け、心を込め100年住み続けられる住まい造りをしました。現在は大工とは名ばかりで、プレカット工場に発注すると、コピュータと機械で仕口を削り、壁もプラスターボードクロスです。職人が心を込める場所も時間もありません。本当に棟梁らしい棟梁も伝統的な技術もった職人はどんどん減っている残念な状態です。
*小舞職人(=小舞屋)
高度経済成長期以前、日本民家の壁材はモルタルではなく土壁が使われており、左官職人が「ふね」と呼ばれる土壁の材料を練り込む前に、竹や貫(ぬき)を縦・横に組んだ小舞と呼ばれる下地を編む「小舞屋」という職人がいた。
*プレスカット工場
木造建築における木工事部分(骨組み)を、住宅施工前に工場の機械(CAD-CAM)によって木材を切断・継ぎ手加工を施す作業のこと。
*プラスターボードクロス
プラスターボードとは、石膏ボードの別名。石膏を芯材として、その両面と側面をボード用紙で被覆したボードのことをいう。室内の仕上材であるビニールクロスの下地材として使用される。
住宅メーカーは耐用年数を20年程度に設定していると聞いたことがあります。それはそうです、長持ちすればするほど需要は先細りになってしまいます。何十年か前にある大手住宅メーカーが「100年住宅」というのを打ち出しましたが、いつのまにか消えてしまいました。
いま多くの人は住まいを作る時、まず住宅展示場に行きます。美しいシステムキッチン、壁掛けのテレビ、ゴージャスなソファーと各社競って新しいライフスタイルを提案しています。住宅展示場の良さは、これだけの金額でこのような物が手に入ると具体的にイメージできることです。夢を膨らませ設計を依頼すると色々案を出してくれますが、ある時点から契約を急がされます。当然のことです、設計にかけられる経費には限度があるからです。
私の家の周りもほとんど住宅メーカの建てた住宅です。20年くらい経過した頃から建替えが始まり、現在7割り方が変わっています。住宅メーカーは耐用年数を20年程度に設定していると聞いたことがあります。それはそうです、長持ちすればするほど需要は先細りになってしまいます。何十年か前にある大手住宅メーカーが「100年住宅」というのを打ち出しましたが、いつのまにか消えてしまいました。
しかしこの住宅の耐用年数は社会問題です。寿命が伸び80、90歳はあたりまえの時代ですから40歳で家を建てたとして耐用年数30年としても70歳で家無しになってしまいます。少なくとも60年は保って欲しいです。60年、100年住み続けられる家は単に丈夫で物理的に劣化しないだけでは駄目です。住い手や環境と良い関係を保ち続けられるものでなくてはなりません。
☞住まいは買うモノではなく、一緒に創るモノ。建築家・阿部勉の美徳。(1/4)
☞変わるモノと、変わらないモノ。そして変わってはいけないモノ。正しく古いものは、永遠に新しい。(2/4)
☞モノがない時代の豊かな生活。建築家・阿部勤のルーツ。(3/4)
☞住まい手を取り巻く環境から、そのあるべき姿を探し出す。阿部勤の考える品格。(4/4)
1936年東京都生まれ。1960年早稲田大学理工学部建築学科卒業後、坂倉準三建築研究所入所。北野邸、佐賀県体育館、呉市民会館、ホテル三愛、神奈川県庁舎、タイ国文部省の要請により、農業高等学校、工業高等学校、及びカレッジ25校の設計管理に従事。戸尾任宏、室伏次郎と主宰した株式会社アーキヴィジョン建築研究所を経て、1984年に室伏次郎と共に株式会社アルテックを設立。私の家、蓼科レーネサイドスタンレーなど代表作は多数。個人事務所として最多6度の「建築25年賞」受賞。早稲田大学理工学部建築学科非常勤講師、東京芸術大学芸術学部非常勤講師、女子美術大学非常勤講師、日本大学芸術学部非常勤講師を歴任。
Profile
Name: 阿部勤
DOB: 1936/7/7
POB: 東京、日本
Occupation: 建築家
http://abeartec.com
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