日本人が忘れた「道」精神とその至高のDNA。彫刻家・籔内佐斗司からのメッセージ(1/2)
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INTERVIEWS:
籔内佐斗司 / 彫刻家
人々は礼節をわきまえ、質素な中にもセンスの良い着物を纏い、治安はよく、どこに行っても優しい笑顔に出会い、子供たちの歓声と赤ん坊の元気な泣き声が聞こえる───。幕末に来日した西洋人が記した一文から、忘れられた実の日本文化と美意識がわかる。清く、正しく、美しく、この祖先が築いたこの国土に生まれ死んでいく、生と死に境目はなく命は繋がっている。そのすべてに感謝のこころを持って生きること。
生と死に境目はない
いま一番思い出さないといけないことは、命は繋がっているということです。戦後、アメリカ的な利己的商業主義的な考え方では、この世に生まれてから死ぬまでが人生です。しかしこの考え方は、日本史の中で百年の歴史もありません。それ以前は、前世・現世・来世の三世を生きています。生と死の間に境目はありません。その日本人がこうした宗教的感覚や生活習慣を失ったのは、戦後の教育と地域社会の変動なのです。
日本人として時間軸をしっかり持つことの大切さ、悠久の時間のなかで、祖先の血肉と骨が埋もれたこの国土に自分が生まれ、生きて、死んでいく、そのことのすべてに感謝をもって過ごすことの大切さを感じることです。だからご先祖さまは大事にしないといけませんし、親は尊敬しないといけません、そして未来からの授かりものとして子供は大切に育てなくてはいけない、昔から日本人はそういう風に考え続けてきたはずです。昔の日本人は、神仏と先祖への畏敬がすみずみまで行き渡った生活をしていました。日本人の宗教は、この国の土から生まれ土へ還っていく「産土教(うぶすなきょう)」とでも呼ぶべきものです。それを仏教や神道の智慧で補強しただけで、本質は「宗教」ではなく「生き方」なのです。
日本には、武士道、茶道、華道、香道、書道、芸道、神道、仏道などの「道」のつく美学がたくさんあります。日本人が忘れてしまった、美学を持って人生を生きるための教えです。武士道は、人を殺めるための技術ではなく、武士としての矜持を貫く生き様であり、ひとたび刀を抜けば、その刃は自分自身にも向いていました。そして一般庶民も「お天道さま」に恥じない生き方を自らに課していました。現代の日本人は、どうでしょうか?自我ばかりが強く、感謝のこころを忘れてしまっています。この日本文化、美意識を子供たちの世代にどう伝えていくのかが、今を生きている私たちの責務です。ですから私が作る作品は、そういうことを表現しているのです。
アジアはひとつ
私の彫刻技術は、仏像彫刻の造り方が基本です。木曽檜の寄木造りで漆を何層も塗り重ね、顔料や金銀箔などで彩色し古色を施して仕上げます。若い頃に学んだ仏像の修復技術を作品制作に応用しています。日本の古典的な仏像技法は、平安後期から鎌倉初期に最高度に完成されていましたが、そのほとんどが古くさい職人仕事として最近まで忘れられてきました。
これらの技術は、中国の唐の文明から伝来しています。黄河流域は砂漠ですから、石や金属の文明。揚子江流域で、木と漆、田んぼから取れる粘土で作られた文明。聖林寺十一面観音立像は、木で彫刻して漆で作っていますし、東大寺盧舎那大仏は鋳造で作られています。日本の天平時代の遺品は、唐が最盛期を迎えた時代の一番いい部分が丸ごと持たらされたタイムカプセルのようなものです。
私は、日本文化を突き詰めれば突き詰めるほど、日本オリジナルはないと思います。すべて大陸から来ています。それを認めたがらない人もいますけど、認めないことには話にならない。着物は、呉服といって呉の地方の服ですし、天皇という言葉でさえ中国の言葉です。もっといえば文化も「文治教化」という漢語からきています。長安からローマまでを繋いでいた唐王国は、世界帝国ですからシルクロードの文明がすべて入っています。
中国人は、シルクロードに住んでいたひとびとを「胡人(こじん)」と呼びますが、胡とはペルシャ人のことです。もっといえばソグド人です。ですから、この胡が付く言葉は山ほどあります。胡の瓜とかいて胡瓜。胡の座り方は胡座。胡散臭いもそう(笑)。日本文化の中には、日本人が気が付いてないシルクロードの文化がたくさん残っています。日本の文化の中に脈々と息づいている叡智と精神は、岡倉天心が言った通り大陸アジアの文化なのです。
伝世古(でんせいこ)と土中古(どちゅうこ)
日本が他の国と違うところは、移入したものを捨てなかったことです。朝鮮半島も、中国も、大部分の他の国は、王朝が変わる度に前のものはすべて捨てられ埋められてしまう。そして何百年、何千年の時をへて発掘され文化財のことを「土中古」と呼ばれます。それを作り出した人と、今それを見る人に共通の意識は皆無です。発掘した人や、時代によって新たに価値付けされるのです。例えば「ミロのヴィーナス」と呼ばれる女神像は、実際はどういう女性を表した像であったかはわかりません。
日本は王朝が変わっても、意図的に破棄することが奇跡的にほとんどなかった。先人が遺したものをすべてを受け入れて大事に保管し、手から手へ護り伝えて来たのです。これを「伝世古(でんせいこ)」と呼び、日本人は古来から伝承してきた技術を「無形文化財・人間国宝」として守っているのです。
私は子供の時から日本の古いものが大好きでした。祖母の家に行くと、錆だらけの古い脇差やら、掛け軸、古い食器があり、日々の生活の中に自然とそういったものを取り入れる文化がありましたし、昔の人が作ったものは大事にしないといけないということに自分で気がついたのでしょう。祖母の箪笥の引き出しの中には、貰い物がみんな大事に保存してありました。包み紙とか組紐とか、使う使わないに関わらず全部きちんと保管されていました。
私は、古いものを大切にする「依り代」を背景とした日本文化のことを「おばあちゃんの箪笥の抽斗し文化」だといってます。文化財保存学を藝大で教えていた時、天平時代の仏像を研究するために、中国からたくさんの留学生が来ていました。中国には伝世古としての文化は残っていないですから、日本に来ないと学べないわけです。私は、彼らを教育することを中国への恩返しだと思っているのです。
文化力と文明力
私が学び、働いた東京藝術大学の創立者は岡倉天心です。彼は「アジアはひとつで、日本の藝術文化の中に脈々と息づいている叡智と精神は、大陸アジアの文化である」という思想を、日本全体が脱亜入欧に沸く時代に主張します。残念なことに日本は戦争という文明力を追求していく時代に突き進んでいきますが、明治の時代に世界を見て廻った岡倉天心は、これからの日本に必要なことは文明力ではなく「茶の湯」「仏教美術」「手芸工品」に代表される日本独自の文化力であることを見抜いていたのです。
文化と文明を考えるとき、文化とは農民的で地域に根ざした固有の情緒や美意識である一方で、文明とは都市住民的で、複数の文化が交錯し交易が行われる都市において、普遍的、多元的であり効率を追求したもので論理的ということになります。その日本人から宗教的感覚や生活習慣を奪ったのが、米国の指示に従った戦後の教育と地域社会の変動です。
幕末に日本を訪れた西洋人の記録には「人々は礼節をわきまえ、質素な中にもセンスの良い着物を纏い、治安はよく、どこに行っても優しい笑顔に出会い、子供たちの歓声と赤ん坊の元気な泣き声が聞こえる」と記されています。日本人の美意識と五感の鋭さに驚いたのです。私たちは、今こそ「日本のこころ」を学ぶべきなのです。
アーティストは人を幸せにして「なんぼ」の商売。日本人の精神世界の諧謔を弄する籔内佐斗司の生き様。(2/2)
1953年、大阪府大阪市にて生まれる。大阪府立三国丘高等学校を経て、1978年、東京芸術大学美術学部彫刻科卒業。1980年、東京芸術大学大学院美術研究科澄川喜一研究室で彫刻を専攻し、修了する。2003年「第21回平節田中賞」「倉吉;緑の彫刻賞」受賞。2004年 東京藝術大学大学院 文化財保存学教授に就任。2005年 特別展「籔内佐斗司in醍醐寺」(京都・醍醐寺霊宝館ギャラリー)。2006年「籔内佐斗司彫刻展 神霊的童子」(香港崇光百貨店有限公司/香港)、「三越美術百年記念 籔内佐斗司彫刻展 百年童子」(日本橋三越、各店)、2007年 高島屋美術部100周年記念展「籔内佐斗司~笑門来福~」(日本橋高島屋、各店)。
【主な野外彫刻】
秋田県<秋田県立近代美術館>、東京<童々広場><青松寺>、神奈川<横浜ビジネスパーク>、石川県<うるし蔵>、愛媛県<久万青銅之回廊><観音寺><四国中央市野外運動公園>、福岡県<博多全日空ホテル> その他、全国多数
【主な野外彫刻】
秋田県<秋田県立近代美術館>、東京<童々広場><青松寺>、神奈川<横浜ビジネスパーク>、石川県<うるし蔵>、愛媛県<久万青銅之回廊><観音寺><四国中央市野外運動公園>、福岡県<博多全日空ホテル> その他、全国多数
Profile
Name:籔内佐斗司
DOB: 1953年
POB: 大阪府
Occupation: 彫刻家
籔内佐斗司の世界
https://www.uwamuki.com
籔内佐斗司オフィシャルインスタグラム
https://www.instagram.com/yabuuchi_satoshi_official/
籔内佐斗司オフィシャルフェイスブック
https://www.facebook.com/uwamuki2960
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