50’s、60’s、70’s、80’s…脈々と受け継がれるタイ音楽独特の文化カルチャー。パラダイス・バンコクで提供されるお酒「ヤードン」との共通点(2/3)

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INTERVIEWS:
マフト・サイ/Maft Sai/Dj/Producer/Founder of ZudRangMa Records & Studio Lam/Co-owner of Paradise Bangkok & SaNgaa/The Paradise Bangkok Molam International Band


タイ音楽は其々に独特のリズムが有り様々なジャンルに細分化されています。各々に文化やルーツそしてストーリーがあるのです。文化的要素がとても強いのです。

タイの音楽はそれぞれにリズムがあるのです。プータイにはプータイのリズムがあり、ラムプルーンにはラムプルーンのリズムがある。加えてこのリズムはこのセレモニー(お祭りや行事ごと)の場面で使いこのリズムはこのセレモニーで使うというように曲により使い方が決まっています。文化的要素がとても強いのです。そしてタイ音楽は様々なジャンルに細分化されています。まずはイサーン地方(タイ北部地方)から考えてみよう。イサーンには、ルークトゥン、モーラム、ルークトゥン・イサーンといったジャンルがあります。モーラムに関してはサブジャンルがあり、各県、各土地にそって更に細分化されています。一般的なモーラムから、ラム・クローン、ラム・プーン、ラム・プルーン、ラム・トゥーイ、ラムペーン、ラム・プータイ、タンワーイ等が挙げられます。それぞれにまたスペシャライズが存在します。イサーン音楽はピンやケーンと呼ばれるイサーン地方の楽器で演奏されます。この音色が特徴となっておりルーツを辿ればラオスまで繋がっているのです。

カントゥルムは南イサーンのジャンルでありクメールとのコネクションがあって誕生した音楽です。クルンテープはバンコクのジャンルで別のフォーカスをしています。ルーックルンやルークトゥンはバンコクのプロダクションです。昔からルークトゥン系のプロダクションはマネージメントも殆どバンコクが拠点でした。そしてナンタルンと呼ばれる南部の影絵音楽から派生した音楽があります。タルン音楽には、マノーラーが代表的です。南部地方ですからマレー系の要素も混ざっています。南部音楽にも元来、笛の一種であるピーやピーシャワーと言う楽器があります。タルンには特有のグルーヴが混ざり異色のサウンドを確立しています。

*レーはスパンブリー県の音楽です。イサーン地方のファーストゲートと言われる場所から生まれた音であり、仏教に深く関連しておりテンプル(寺院)音楽とも呼べます。内容も寺院や仏教など宗教に関する内容の歌が多いのが特徴です。そのような背景が故、レー音楽はやがて抑圧されてしまいます。近年、カルチャーよりもビジネスに傾倒し日々の日常や娯楽に関する内容の楽曲が増加しましたが、元々はルーツ音楽だったのです。モーラムも同じことです。

*ルークトゥン・イサーン(英:Luk thung Isan):
スリン・パークシリが名付け、イサーン人のためにイサーン語で歌ったルークトゥンのジャンルの一種。

*ラム・クローン(英:Lam Klon):
ケーン一本の伴奏で男女二人か男二人で歌うスタイル。クローンとは「詩」の意。

*ラム・プーン(英:Lam Pung):
ケーンのみをバックに一人の歌手が歌う演奏スタイル。モーラムで最も古いスタイルの一つ。

*ラム・プルーン(英:Lam Plern):
「プルーン」は楽しむという意。元々はモーラム劇中のダンス・ミュージック。

*ラム・トゥーイ(英:Lam Tuui):
ラム・クローンの中で歌われる求愛のラム。7インチには、A面/B面に男/女の歌が対に録音されていることが多い。

*ラム・ペーン(英:Lam Peng):
80年代初頭にドイ・インタノンが考案したラムの型。

*ラム・プータイ(英:Lam Phuthai):
プータイ族のモーラム・スタイル。地面に這いつくばるようなラム型でディープな印象を受ける。

*ラム・タンワーイ(英:Lam Tangwaai):
70年代にラオス国内で大流行したラオス南部のラムの型。モンルディー・プロムチャックがイサーンに持ち込みタイ国内でも大ヒットした。

*カントゥルム(英:Kantrum):
イサーンの中でスリン、ブリラムといったクメール文化の強い土地の音楽。

*クメール(英:Khmer):
クメール王朝は9世紀から15世紀まで東南アジアに存在していた王国で現在のカンボジアのもととなった国。クメール人はカンボジアを中心とする東南アジアの民族。カンボジアの総人口の約90パーセントを占めるほか、タイ東北部、ラオス南部、ベトナム南部などにも住む。

*クルンテープ(英:Krungthep):
クルンテープマハーナコーンの略称タイ王国の首都県つまり「バンコク」の意。バンコクという単語は主に外国人が使用する言葉である。

*ルーックルン(英:Luk Krung):
タイのポピュラー音楽のジャンルで民俗音楽より洗練された都市的なスタイルを持つ。タイ政権交代を経たラマ7世治世時代の1931年頃に民衆の声を歌詞に反映させる形で誕生。

*ナン・タルン(英:Nang Talung):
タイ南部の影人形劇。カンボジア、マレーシア、インドネシアでも同様の芸術が見られる。パフォーマンスは、人形、ナレーター、俳優、ミュージシャンで構成される。

*マノーラー(英:Manorah):
タイ南部の神話劇の音学。

*ピー(英:Pee):
ピーはタイに伝わるフリーリードの笛。リード部分を覆いかぶすように口を当て強く息を吹き込み出音。指孔は表に7穴。

*ピーシャワー(英:Pee Chawa):
タイの伝統楽器の一種。

*レー(英:Lae):
仏教の説法に節、リズムを加え民謡化した音楽ジャンル。バーリ語の仏教経典が宮廷学者の改編を経て民間へ広まり、僧侶の説法で普及。サリット/タノン政権で国威掲揚的に推奨された。

DIY Disco Molam – Rarities From The Khaen Sang Label
Artist: Various Artists
Label: ZudRangMa Records
Cat. No.: ZRMLP005
Release: 2019

  1. Maneerat Kaewsadet – Kieow Choo Pern
  2. Soonthorn Chairungreuang – Lam Plearn Sadudee Maharacha
  3. Maneerat Kaewsadet & Soonthorn Chairungreuang – Toey Bump
  4. Patcharee Kaewsadet – Yaa Ti Kaa Laai
  5. Soonthorn Chairgreuanung – Bor Ti Kaa Laai
  6. Soonthorn Chairungreuang – Toey Disco
  7. Soonthorn Chairungreuang – Kor Bump
  8. Ratree Seewilai – Chern Bump
  9. Preeda Kaewsadet – Kiew Bao Kae
  10. Soonthorn Chairungreuang – Toey Taam Kaao

Suphanburi Soul : Kwanjit Sriprajan – The First Lady Of Lae Music LP
Artist: Kwanjit Sriprajan
Label: ZudRangMa Records
Cat. No.: ZRMLP006
Release: 2019

  1. Tam Boon Gun Terd
  2. Pid Thong Pra
  3. Nang Kruan
  4. Panatibat Sin Kor 1
  5. Atinnatan Sin Kor 2
  6. Kamaysumitchajan Sin Kor 3
  7. Musawat Sin Kor 4
  8. Suramayrai Sin Kor 5
  9. Tam Boon Sang Wat
  10. Pid Thong Luk Nimit
  11. Ai Barb Ap Boon

イサーンにG.I. 基地が設置された頃にモダンナイズが始まりました。概ね’60年代後半から’70年代の初頭です。西洋楽器と現地のローカル楽器とが自然の流れで一緒に演奏される様になった。新しいサウンドの誕生です。

但し近年、’50、’60年代頃からトラディショナル化と言うのでしょうか。楽曲がモダンナイズされ始めた時代へ突入します。ルークトゥンやモーラムそして南部音楽も全て同じ流れを辿ります。当時の内容としては戦争を題材としたものがあります。タイ国内の様々な県にアメリカの基地が拠点としてありました。それによってゴーゴー・バーが出現しG.I.の為に数多くのバーが出現しました。その結果、ドラム、電子機器、キーボード、アンプ、ギターなど様々な西洋楽器が輸入されました。そして人々は西洋音楽とタイのローカルサウンドを混ぜて演奏するようになりました。新しいサウンドの誕生です。

例えばモーラムが顕著です。イサーンにG.I. 基地が設置された頃にモダンナイズが始まりました。概ね’60年代後半から’70年代の初頭です。西洋楽器と現地のローカル楽器とが自然の流れで一緒に演奏される様になりました。最初は西洋楽器の演奏方法を知る由もありませんでした。ベースはどうやって弾くのか?ギターはどうやって弾くのか?手探りで演奏を始める訳です。こういった実験の結果、とても独特なモーラム音楽の音が生まれたのです。偶然に誕生したこの現代モーラム音楽は、このような背景がキャラクターを与えたという事になります。

2009年のParadise Bangkok(パラダイス・バンコク)のスタートから使用しているお酒が「ヤードン」です。ヤードンのコンセプトはとても興味深い。このプロセスは音楽と非常に似ていると感じています。ただ少し見る角度を変えたのです。

2009年のParadise Bangkok(パラダイス・バンコク)のスタートから使用しているお酒が「ヤードン」です。このイベントの音楽趣旨は’60〜’80年代が中心のモーラムやルークトゥンの円盤です。そしてこの素晴らしい音楽を仲間内だけでシェアするのではなく、普段はこういった音楽を聴かない人達にも興味を持ってもらえるよう訴求したかったのです。タイは身分階級の違いも露骨です。身分によって聞く音楽ジャンルが違うという差別的な現実があるのです。微力かも知れないがそんなイメージを打破し、純粋にクールな音楽はクールな音楽として皆が堂々と聞ける環境を作りたいと考えたのです。今の話と共通していたのが「ヤードン」と言うアルコール飲料なのです。ヤードンは一般的に飲む事を恐れられてきました。アルコール度数も高く肉体労働階級の人達しか飲まない危険な印象が強かった。そんな時、ふと音楽でプロモートしたいと思っているコンセプトとヤードンとの共通点を見つけたのです。それらの音楽やお酒は文化的な要素が強く本当に良いものなのです。残念な事に時代が変わり現代社会では低クオリティーの印象が強くなってしまった。

モーラム音楽は’90年代後半から2000年代に転機を迎えます。プロダクトは音楽の本質ではなく歌詞内容や市場にフォーカスする様になってしまった。ヤードンも昔は健康促進の為の薬草酒で詳しい専門家の元でのみ製造が許された飲料だった。アルコールがベースですが薬草を使った健康促進ドリンクだったのです。このようなコンセプトの共通事項に着目したのをキッカケに自分達でアルコールの質も良く、味も良いオリジナルのヤードンを作ろうという事になりました。グレードの高い製造方法とクオリティの高い味を目指し、適切なアルコールを探し上手くインフューズ出来るように色々と知識を得て試行錯誤しました。その後、更に本格的にヤードンについての研究と追求を始めたのはStudio Lamをオープンさせてからです。

ヤードンのコンセプトはとても興味深い。元来、健康の為にハーブを軸にしたお酒ですが元祖のクラシカルな味とは異なった自分達のオリジナリティーを考案しました。従来はラオカーオ(タイ米酒)をベースに作られますがベースのお酒を別のものに変更してみたり、ラオカーオだけでは無くジンやテキーラ、ウォッカやバーボンを使いハーブや果物と味をインフューズさせていきました。アルコールの味に変化を持たらせたのです。それを元にオン・ザ・ロックやカクテルなど次々に新しい商品を開発しました。このプロセスは音楽と非常に似ていると感じています。ただ少し見る角度を変えたのです。

音楽のフォーマットは時代と共に変化しますが、私はフォーマットに関してはシリアスに捉えていない。どのようなフォーマットであれ最後は音楽ですから。音楽にとって本当に大切な事は歌詞でありプロダクションでありサウンドのクオリティーです。時代が変わっても変わらない物に対する価値観という考え方があるのです。

元来、音楽はライブミュージックでした。いつしか円盤に録音されるようになり、やがてビジネスの世界へと発展します。商品となりジャケットもカラフルになっていきます。しかし’70年代や’80年代に入るとコストが不足し商品のアートワークやジャッケットもバジェットが圧縮され始めます。徐々に一色だけで印刷したジャケットが登場しアーティストの写真も無く文字だけが記載されたジャケットになっていきました。その後カセットの時代に突入します。円盤時代で使用された絵(デザイン)をカセットにも使い回したりします。ようやくより多くの市民が自分で好きな音楽を聴ける時代になった。その後CDの時代になりよりデジタル化へと舵を切っていった。それぞれの時代にあったそれぞれの考え方がありますから。しかし時代が変わっても変わらない物に対する価値観という考え方があります。価値を見出された円盤やカセットがいま存在しているわけです。

デジタル音楽の便利さというメリットの反面、音楽を見つけるまでのストーリー性や過程が失われてしまうというデメリットがあるのではないかと思うわけです。

私は音楽をダウンロードして聞くタイプの人間ではありません。あまり使い慣れない感じがするのです。デジタルの便利さの一つとして中毒性を持たせられるというメリットがあります。同時に簡単かつ大量に手に入りますから商品自体の価値は薄く感じられてしまうのかもしれません。音楽を見つけるまでのストーリー性や過程が失われてしまうというデメリットがあるのではないかと思うわけです。円盤だった頃は見つける過程やキッカケで遭遇する事柄や出会いがあった。円盤1枚1枚に物語がありました。

タイでは円盤を買って音楽を娯楽として楽しめるのは一部の富裕層だけでした。一般の庶民達はそんな娯楽に手が届かなかったわけです。または商業主に向けて販売され、商業主は別の形で一般の人達に向けて音楽を提供していました。例えばレストランやカラオケいわゆる昔ジュークボックスが置かれていた飲食店等がこれに当たります。これらのお店がイサーン音楽の円盤を購入し一般のイサーン庶民に聴かせていたわけです。

ビジネスゲームに依存すれば、新しい作品、風変わりな作品は生まれない。The Paradise Bangkok Molam International Bandが目指すゴール(3/3)☞ 続く


Name: Maft Sai
DOB: Unknown
POB: Unknown, Thailand
Occupation: Dj / Producer / Founder of ZudRangMa Records & Studio Lam / Co-owner of Paradise Bangkok & SaNgaa / The Paradise Bangkok Molam International Band
http://www.zudrangmarecords.com
https://www.instagram.com/maftsai/

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