ソウル、ジャズ、ファンク、レゲエ、エレクトロニック、ヒップホップ…音楽愛好家ほど熱狂するタイ音楽。マフト・サイのルーツに迫る(1/3)

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INTERVIEWS:
マフト・サイ/Maft Sai/Dj/Producer/Founder of ZudRangMa Records & Studio Lam/Co-owner of Paradise Bangkok & SaNgaa/The Paradise Bangkok Molam International Band


タイ王国の首都バンコク。東南アジア屈指の世界都市である。敬虔な仏教国であるこの国では国民の9割以上が上座部仏教を信仰し、歴史ある寺院が街中に点在し熱心にお祈りを捧げる姿を日常的に目にする事ができる。近年は光化学スモッグの白い空の下、高層ビルが立ち並び、夕方には所狭しと車が渋滞する。此処バンコクは様々な人種、文化、歴史、経済、宗教が交差する坩堝だ。そんな喧騒の中にありながらゆっくりとした生活が溢れている。そんな魅力がこの街、人々にはある。幼少期を海外で過ごし、自国「バンコク」を俯瞰しながら、その歴史と文化を昇華し全く新しい音楽文化を創り上げた男がいる。その男、マフト・サイである。

興味の赴くままに音を掘り続けた。一言で例えるなら、私は音楽のジャンキーだ。

サワディーカップ(こんにちは)。私の名前はDJマフトサイです。ZudRangMa Recordsと云うレコード屋を営んでおり音楽レーベルでもあります。そしてParadise Bangkokというイベントを主催しています。また、イベントから派生したThe Paradise Bangkok Molam International Bandのメンバーでもあります。それからStudio Lamと云う名前のバーを経営しています。最近はSukhumvit 51 StreetでSANGAAと云う名前のタイラーメン屋も経営しています。今やっている事は大枠こんなところです。一言で例えるなら、私は音楽のジャンキーだ。何故かというと全部に音楽が関連しているからだ。私が手がける事業で1つでも音楽の要素が無いものは恐らくやっていないでしょう。タイラーメン屋を始めたのもそうだ。飲食店ですからレシピなどは友達がやっていて私は音楽のプレイリスを作る事が目的なのです。その場所の雰囲気作り担当です。ビジネスの側面においてもクリエイティブの側面においても全てに音楽が関わっているのです。

私はタイで生まれて10代前半の頃にオーストラリアへ留学した後イギリスへ留学しました。初めてアナログ盤レコードを買い始めたのはその頃です。ソウル、ジャズやファンク、レゲエ、エレクトロニック、ヒップホップ等、様々なジャンルを探求しました。ある程度レコードが買い集まって来た頃にDJを始めるようになりました。集めた数多くのレーベルの中からワールドミュージックに目覚めたり、サンプリングされた曲を見つけたり、興味の赴くままに音を掘り続けた結果、アフリカや中東、アジア圏から来たレコードも掘るようになったのです。そして私の探究心は、タイファンク〜ルークトゥン〜イサーンへと幅を広げて行ったのです。最近はインドネシアやマレーシアの音も掘るようになり、南方の音が増えています。深く探求するとレーベルとレーベルの繋がりが見えてきます。時代や文化の関連性が明らかになりさらに探求の旅は続きます。ここへ辿り着いた理由はそう成るべくして成ったのです。ディガー、コレクターやセレクターと云う性質なのでしょう。人生の時期によって影響を受けたり意識を向ける音楽もその都度やっぱり異なりますから。例えば7年前に収集した円盤があるとします。その当時はあまり使わなかった円盤です。しかし時間が経つにつれてどうして今まで聴かなかったのだろう?と思ったりするわけです。そういった音源を再利用する為にもこうして未来で起こしたプロジェクトによって実際に価値を見出し、有効活用出来ていると云う事が実現されているのです。

*ルークトゥン(英:Luk thung):
「田舎者の歌」、「田園の子」という意。タイの音楽ジャンルの一つ。タイの農村生活様式、文化的特質、社会パターンを反映した詩的な歌詞で構成されされる。農村の貧困、恋愛、田舎風景の美しさ、宗教的信念、伝統文化、政治危機など、タイの田舎生活に基づいた幅広いテーマで歌われることが多い。

*イサーン(英:Isan):
タイ北東部の20の州で構成された地域。Isanはタイの最大の地域でメコン川を挟み北部と東部に分かれる。そして南東にはカンボジア、ナコンラチャシマの南にはサンカムペン山脈に接する。西にはペッチャブン山脈によって北部と中央部のタイから隔てられています。

私が好むのは「正直な音楽(Honest Music)」という事です。そこを深く掘って探求していくと今まで知らなかった事に出会います。30年も40年も見過ごされて来た文化があるのです。これに関する本や資料は無くテレビで語られる事もありません。誰も手をつけてこなかった文化なのです。

私がタイの音楽をしっかり聴き始めたのは、海外留学からタイに戻ってきた2007年の頃でした。それ以前にもタイファンクと云うカテゴリーの中で曲は聞いていました。例えば’60年代’70年代から’80年代初期までのストリングスミュージックだ。そしてソウル、ファンクのカヴァーであるディスコサウンドなど西洋音楽に影響された音楽を円盤で見つけては聴いました。しかしタイのルーツミュージックであるルークトゥンやモーラムまでは掘り下げて聴いてはいなかったのです。私が初めて買ったモーラムの円盤はChaweewan Dumnern(チャウィーワン・ダムヌーン)とAngkanang Kunchai(アンカナン・クンチャイ)でした。この2アーティストの曲は特によく聴いていました。何故なら東アフリカ、エチオピア等、既に自分が収集して聴いていた音に近いものを感じたからです。その後、Dao Bandon(ダオ・バンドン)を知って何故か彼の音楽にマリの音を連想しました。次にルークトゥンを聴いて連想したのがエチオピアなのです。その頃からふと自分が興味を持って好きで買ったり集めたりしている音楽と似ている事に気付いたのです。そこから一気にハマり、無我夢中でタイのルーツ音楽を探求しました。聴き込めば聴き込むほど類似点が見つかりました。しかし文化的な共通点は見つかりませんでしたが、よくよく聴いていると各々が独自に音の特徴を持っている事が分かってきました。そこで、更にプロダクションに関しても勉強する様になったのです。その頃はイサーン音楽を中心に特に、イサーン地方からラオスの文化まで様々な音楽を聴いていました。野外イベント向きの音楽のような楽しい音が多いです。昔からタイにはサウンドシステム文化があり野外で音を流して音楽の雰囲気に触れる事が沢山出来たのです。その後、「ZudRangMa Records」レーベルを立ち上げタイファンクのコンピレーションを制作し、2009年、「Paradise Bangkok」主催という大きな流れが動き出したのです。

私が好むのは「正直な音楽(honest music)」という事です。そこを深く掘って探求していくと今まで知らなかった事に出会います。30年も40年も見過ごされて来た文化があるのです。これに関する本や資料は無くテレビで語られる事もありません。誰も手をつけてこなかった文化なのです。そこで私は何かプロジェクトを考えて形にしたいと思い始めたのです。それから私は音源リリースや音楽イベントを精力的に進めてきました。誰も見向きもしなかったジャンルの音楽を、ただの飽きられた古臭くてダサい過去の産物では無いと云う想いと共に現場で鳴ら続けたのです。音楽イベントでは他国のワールドミュージックと並べてタイのルーツミュージックを流しました。それによって聴衆はタイの音楽も実は世界各国の音と似ている部分がある事に気づき始めました。その結果、今までタイの音楽に全く興味がなかった人の心が少しずつ開き始めたのです。

*モーラム(英:molam):
「ラムの達人」「語りの達人」という意。ラオスにルーツを持つタイ東北部イサーン地方のラーオ文化圏の芸能。専門家の「歌」または専門の「歌手」の意の両方で使用される。農村の貧しい人々の生活に焦点を当てるなどルークトゥンと共通している。急速な発声、リズミカルなボーカルそしてパーカッションに対するファンク感覚が特徴。通常ケーンを伴う演奏形式。

*Chaweewan Dumnern(チャウィーワン・ダムヌーン):
1945年生。ウボンラーチャターニー県出身の女性歌手。ランシマン楽団の初代歌姫として60年代から70年代に絶大な人気を誇った。1993年に女性モーラム歌手として初のナショナル・アーティストとなった。

*Angkanang Kunchai(アンカナーン・クンチャイ):
1956年生。アムナートチャルーン県出身の女性歌手。大ヒット曲「Isan Lam Phloen」(1971年)がある。

*Dao Bandon(ダオ・バンドン):
1947年生。ヤソートーン県出身の男性歌手。数多くのヒット曲を残した。酒、女、金などを題材に人々の日常の生活を歌い続けた。最も成功した歌手の一人。

元来、レコード屋だった我々がレーベルを立ち上げ、レーベル主催のイベントを作り、そのイベントからバンドが生まれたわけです。そして音楽家達のパフォーマンス・スペースとして音楽バーの「Studio Lam」が誕生したのです。私が今までやって来たプロジェクトは全てが繋がっているのです。

「Paradise Bangkok」立ち上げ当時からパートナーが1人います。彼の名前はChris Menist(クリス・メニスト)です。パーティーイベントを重ね内容を考案する度に、何かもっと別の要素を増やしたい、という私達の欲求と探究心は大きくなっていきました。ある時、次回はDJだけではなく生ライブをイベントに盛り込んでみようと云う話が上がりました。折角なのでタイルーツ音楽界のレジェンド達をゲストアーティストとして招聘しようという考えに至ったわけです。これまで古い円盤でしか聴いた事がなかったアーティスト達に連絡をして出演依頼をしました。Dao Bandon、Saksiam Phetchompoo(サックサイアム・ペッチョンプー)、Phimchai Petplanchai(ピムチャイ・ペップラーンチャイ)、Angkanang Kunchai、その他にも、様々な大物ゲストを招聘したのです。その結果、我々のイベントは徐々にライブイベントの様な形態になっていきました。

すると今度は自分たちのベースになるバンドが必要になり、過去にイベントで関わってきたアーティストやミュージシャンにもう1度連絡をとりはじめました。最初に見つけたメンバーは以前、Dao Bandonのイベントで演奏していたケン奏者のSawai Kaewsombat(サワイ・ケーオソムバット)です。その後、Saksiam Phetchompooのイベントで会ったピン奏者のKammao Perdtanon(カンマオ・プッタノン)。 Apartment Khunpa(アパートメント・クンパー)のギタリストでもあり、もともと親交のあったPiyanart Jotikasthira[a.k.a. Pump](ピヤナート・ショーティックサティアン[通称:パンプ])をベーシストとして招集しました。そのパンプが連れて来たドラマーのPhusana Treeburut(プーサナ・トゥリーブルッ)。そしてChris Menistがパーカッションを担当、私自身はパーカッションで参加し、更に楽曲のプロデュースも担当しています。元来、レコード屋だった我々がレーベルを立ち上げ、レーベル主催のイベントを作り、そのイベントからバンドが生まれたわけです。そして音楽家達のパフォーマンス・スペースとして音楽バーの「Studio Lam」が誕生したのです。「Lam(ラム)」という言葉は標準語では「踊る」とい意味です。しかしイサーン地方では発音は同じラムでも「歌う」という意味になります。更に北部チェンマイでは「デリシャス」という意味に変わるのです。実はスタジオ・ラムの「ラム」もそれらの意味を全て含んでいるのです。踊って歌ってデリシャスリーという事だ。(笑聲)私が今までやって来たプロジェクトは全てが繋がっているのです。例えばStudio Lamで演奏したアーティストをZudRangMa Recordsがレーベルとしてリリースをする事が可能です。または他のレーベルへ繋げて新たな可能性を探るといった方法も考えられます。また世界各地のレーベルから色の近いDJやアーティストをブッキングし演奏する事も可能です。変幻自在なプロジェクトなのです。例えば、The Paradise Bangkok Molam International BandはStudio Lamがレーベルとなり作品をリリースしています。つまりStudio Lamはレーベルとしても機能しているのです。各々のレーベルには各々の特色があります。ZudRangMa Recordsは文化的で歴史的な色を持つ作品をリリースします。モーラムやルークトゥン、タイファンクなどがそれに当たります。それに対してStudio Lamの方向性はビーサイド・ミュージックと言うか、あまり深い歴史や伝統的なものは求めていません。求められるのはフロアを踊らせられる、人にグルーヴ感を与えられる音なのです。

50’s、60’s、70’s、80’s…脈々と受け継がれるタイ音楽独特の文化カルチャー。パラダイス・バンコクで提供されるお酒「ヤードン」との共通点(2/3)☞ 続く

*Saksiam Phetchompoo(サックサイアム・ペッチョンプー):
1952年生。マハーサーラカーム県出身の男性歌手。ランシマン楽団のドラマーから歌手に転身。ダオ・バンドンと共に数々のヒットを量産。


Name: Maft Sai
DOB: Unknown
POB: Unknown, Thailand
Occupation: Dj / Producer / Founder of ZudRangMa Records & Studio Lam / Co-owner of Paradise Bangkok & SaNgaa / The Paradise Bangkok Molam International Band
http://www.zudrangmarecords.com
https://www.instagram.com/maftsai/

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